dynamicsoar's log

主に研究関係のメモ

Quarto導入メモ (w/ VS Code & Anaconda)

環境

Quarto?

公式: Quarto

Markdown を Pandoc で HTML, PDF, jupyter notebook, reveal.js(HTML/CSS利用のプレゼン用スライド)などへ変換できるらしい。他にも似たようなのは色々あるわけだが、supported by Rstudio でドキュメントが既に手厚い&サポートも手厚そうなのがデカイ。Markdown でのスライド作成という意味では Marp や RISE も試してみたし、これらも悪くないのだが、やはり個人開発は手が回らない部分が多いようだし*1、開発停止も怖い。reveal.js というこれまた長持ちしそう・アクティブ開発されてそう、なものに乗っかっているのも大きい。日本語圏ではまだあまり知られてないようだが、日本語さえちゃんと使えるならこれはかなり良さそうに思える。

Anaconda の準備

  • 普通に入れる
  • Plotly Express はデフォルトでは入ってないので conda install -c plotly plotly_express で入れる(参考: Plotly Express :: Anaconda.org
    • Proxy 環境の場合は、ホームに .condarc を作成して以下を書く必要がある(公式ページ):
proxy_servers:
    http: http://プロキシのIP:ポート
    https: http://プロキシのIP:ポート

このうち、https の方は公式でも https://... となっているのだが、実際には http://... にしないと認識されなかった…。

VS Code での準備

  • Python extension を入れる(多くの人が既に入れてると思うが、デフォルトでは入ってない)
  • Terminal がエラーを吐いてさっぱりうまくいかない場合、Terminal をデフォルトの PowerShell から Command Prompt に変える(参考: python - Working with Anaconda in Visual Studio Code - Stack Overflow)。変更したあとで既存の teminal は exit してすべて閉じて、新しい terminal を開くこと(上のメニューから開ける)

Notepad++ keymap とのバッティング

Ctrl + Shift + K が Quarto では Render という一番良く使うコマンドのショートカットなのだが、Notepad++ keymap という拡張を入れているとこれがバッティングする(keymapの方が優先されてしまう)。そこで、Ctrl + Shift + P から Keyboard Shortcuts を開き、ctrl shift k を検索して、Notepad++ のやつを消すとか変えればいい。他にもバッティングがあったら同様にすればよい。

数式

  • 数式はインラインがシングルドルマークで囲む($\alpha$ という感じ)のだが、ドルマーク直後・直前にスペースがあるとエラーになる。これに気づかずに時間を浪費した…。
  • デフォルトのレンダリングエンジン(でいいのかな)は MathJax だが、KaTeX の方が速いらしいので、以下のようにして KaTeX に変えるのがよいかもしれない。
    • 実は VS Code Quarto Extension の設定で MathJax に mathtools を追加してもうまく反映されない(たとえば \coloneqq が変換されない)ので、この点でも KaTeX の方がよいかもしれない。
format: 
  revealjs:
    html-math-method: katex

Rstudio を使う場合

VS Code では reveal.js のプレビューが1ページずつしか表示されないので、見づらい。

Rstudio だと Visual Editor で WYSWYM ができるという から使ってみた。少しだけ使った感想としては、まぁまぁよさそう…?

Path の問題

起動するとデフォルトの(おそらくRstudioではなくRの)working directory が日本語を含む OneDrive になっているせいでエラーが出た:

Warning message:
In normalizePath(path.expand(path), winslash, mustWork) :

これは Windows のユーザ環境変数R_USER というのを追加して、適当なパス(自分の場合 F:\Dropbox)にすることで解決した。 参考: Rのインストール時に気をつけること - Qiita

OneDrive 末尾の日本語を消す方法

なお、解決策を探している際、レジストリをいじれば組織がデフォルトで OneDrive 末尾につけてくる日本語文字を変更できることを知った: Windowsスマートチューニング(436) Win 10編: OneDriveフォルダー名を自由に変更する | マイナビニュース 。これはこれで便利そうなのでやっておいた。いちおうリンク先消滅に備えてメモしておくと、Computer\HKEY_CLASSES_ROOT\CLSID\{04271989-C4D2-C17E-41C6-0C351AC68371}(Default) と、すぐ近くの Computer\HKEY_CLASSES_ROOT\CLSID\{04271989-C4D2-C17E-41C6-0C351AC68371}\Instance\InitPropertyBagTargetFolderPath を変えておいた。

Rmarkdown がないとかいうエラーか警告

メニューの Tools > Install Packages から rmorkdown で検索して入れたらでなくなった。

*1:たとえば RISE は reveal.js に変換しているらしいのだが chalkboard の色が黒しかなかったりしょぼい。

Jupyter関連メモ

テーマ

フォント

ASCII + Japanese

pure ASCII

スライド (RISE)

変数使用

画像・動画

jupyter notebookで画像や動画を表示させる簡単な方法 | self-methods

esa で外部に公開している記事の一覧

これは何?

esa.io というラボ内Wikiみたいなやつを使っている。これは基本的にクローズドなのだけれど、たまに外部公開してもいいなという記事がある。最初からブログなり Qiita なり Zenn なりに書けよ、と言われるとそうなのかもしれないが、サービスの継続可能性なども考えると内部 Wiki 側で持っておく意味も多少はあるかなとは思う。

で、外部公開自体は簡単にできるのだが、どうも「外部公開された記事たちの一覧」自体は検索結果として動的に生成するしかなくて、外部公開できないようだ。

参考: help/記事・スライドを外部公開し、チーム外に共有する - docs.esa.io

というわけでここにその一覧をメモしておく。手動でたまに更新する予定。

一覧

おまけ

esa-pages.io[B!]新着記事・評価 - はてなブックマーク ←ここからブクマ(はてブ)ついてる記事が見えるけどけっこう皆さん外部公開してるのね…

ん…?自分の記事たちにセルクマつけてそのカテゴリへのリンク貼れば終わり、か…?

switchbot hub mini は 2.4 GHz の wifi にしかつながらないのでルータのバンドステアリングが問題だったかも

環境

  • SwitchBot hub mini
  • router: NEC Aterm WG2600HP4
  • iOS の SwitchBot app

症状

SwitchBot hub mini を Wifi につなぐと、一旦はつながったように見えるのもの、ステータス表示みたいなやつが offline のままで機能しない。

原因の推定

どうやらデフォルトだとこの router はバンドステアリングとかいう機能がONになっていて、SSIDは末尾が -a というやつ1つしかない。で、これに繋がった機器が自動的に 2.4 GHz と 5 GHz に振り分けられる、らしい。SwitchBot hub mini は「5Gに対応していない」とあちこちに書かれていて、これは携帯の電波の4G, 5Gとかのことではなくどうやら実際には5GHzのことらしい。なので、これが原因ではないかと推測した。

参考: WG2600HP4のネットワーク名(SSID)と暗号化キーの記載箇所と記載内容|Aterm Q&A|目的別で探す|Aterm(エーターム) サポートデスク

対処

自動振り分けではなく、2.4 GHz で確実に接続する専用の SSID を設ければ良いと考えた。

  1. aterm の設定画面 ( http://aterm.me/ ) を開いて、管理者でログイン。
  2. Home > Wi-Fi詳細設定(2.4GHz)
  3. 対象ネットワークを選択セカンダリSSID: ほげほげ を選んで、すぐ右の「選択」ボタンをクリック。クリックしないと画面遷移しない。
  4. Wi-Fi機能がOFFだったのでONに変更。SSIDと、少し下の方にある暗号化キーを1Passwordに登録。
  5. SwitchBot でこの新しい -gw というSSIDに接続すると、online になった。
  6. 2022-09-13追記:ただしこの w はどうやら WEP(セキュリティが弱い、古い接続方式)を意味しているっぽいというのを見かけたので、そうなっていない(WPA2である)ことはチェックした方がいい。

mazpod 004 show notes

mazpod ep 004 の show notes (full version). Anchor ではURLまで文字数にカウントされるのか、全然入らなかったのでこちらに。

内容の分布はこんな感じ(上図): 航空機の分類・力のつりあい・飛行機の各部名称1・座標系の話・各部名称2

  • 航空機の分類: 軽航空機(気球飛行船)と重航空機(固定翼機回転翼機
  • モンゴルフィエ (Montgolfier) 兄弟による有人熱気球初飛行は1783年だった
  • 浮力
  • (動的)揚力: 「前進速度がないと得られない」と言ってるときの「前進速度」の主語は「翼」。ヘリコプタのホバリングでは機体は前進していないが、ローターブレードという翼は前進(実際には回転)している。
  • 固定翼機: 滑空機(グライダー)飛行機
  • 回転翼機オートジャイロヘリコプタ
  • 羽ばたき機: 人が乗れるものはたぶんない
  • ドローン…無人航空機 (UAV, UAS)英語の drone はミツバチのオスでした(スズメバチじゃなかったしスラングでもなさそう)。
  • 飛行機の力のつりあい: 「ヘリコプタにはジェットエンジンがついてない」実際にはピストンエンジン(レシプロエンジン)のものとガスタービンエンジンのものがある。後者はほぼジェットエンジンと同じで、ただしジェット噴射の反力で推力を得るのではなく、ギアを介して軸を回転させて、ローターを動かしている。このようなエンジンはターボシャフトエンジンと呼ばれる。
  • 飛行機各部の名称: まず大きく機体 (airframe) と推進装置 (powerplant) に分かれる。ちなみにアメリカで航空機の整備士は A&P (airframe & powerplant) と呼ばれる。機体は、主翼 (main wings)・胴体 (fuselage)・尾翼 (empennage, tail)…水平尾翼 (tailplane)・垂直尾翼 (fin)・降着装置 (landing gear) などに分かれる。さらにコクピットや各種系統(システム)がある。
  • 剛体の運動: 6自由度 (6 degrees of freedom, 6 DoF)。並進3自由度・回転3自由度。並進は前後・左右・上下。回転はロール(横転)・ピッチ(頭の上下)・ヨー(左右の首振り)。
  • 動翼 (moving surfaces): エルロン(補助翼)エレベータ(昇降舵)ラダー(方向舵)。正直、日本語で呼ぶことは稀なので、この show notes のためにググるまで日本語の存在を忘れていた…。ただ、日本語の縦書きの本を読むと確かにこういう言葉は出てくるので、知っておいてもいい、かも。
  • ここでキャンバ (camber) の話をすべきだった。直感的にわかるかなーとは思うけれど、翼型が上に凸な形状になる(=キャンバが増える)と、揚力は増える(抗力もちょっと増えるが)。動翼は、局所的な翼型のキャンバを増やす効果があると考えることができる。
  • エレベータ (elevator): 水平尾翼の後端につく。操縦桿を引くと、翼型の後縁が上に曲がり、尾翼に下向きの揚力が生じる→重心周りでは頭上げのトルク
  • ラダー (rudder):垂直尾翼の後端につく。右のラダーペダルを踏むと、上から見た翼型の後縁が右へ曲がり、垂直尾翼に左向きの揚力が生じる→重心周りでは右へ首を振るトルク
  • エルロン (aileron): 両主翼の後縁につく(翼端付近が多い)。操縦桿を右へ倒すと、右のエルロンが上がり・左のエルロンが下がる。右では揚力が減少し、左では揚力が増大する⇒重心まわりには右回転(後ろから見て時計回り)のトルク。
  • 『左と右っていうのか普通は飛行機だと』: 飛行機では何かの数を数える時左から数える。たとえばエンジンが4つあるジャンボジェット機 (Boeing 747) ならエンジンは左から順に1, 2, 3, 4となる。機長と副操縦士の座席も左と右。ただしヘリコプタでは右が機長(歴史的な経緯は忘れたがググると出てくると思う)。
  • 後ろから見て時計回り: 時計回りの回転を CW (clockwise), 反時計回りを CCW (counterclockwise) と呼ぶことも多い。いまググって知ったけど British English では anticlockwise (ACW) って言うんだ…?聞いたことなかったわ…
  • 操縦桿:「桿」と言ったが、実際には戦闘機でなければWとかUとかMみたいな操舵輪が多い。ただしエアバス系の旅客機は戦闘機みたいなサイドスティック。これは操縦系統とも関連しており、鋼線ケーブルで動翼を人力駆動していた時代・油圧ポンプを経由した時代(ジャンボジェットくらいまで)を経て、今は電線で舵角を指令するフライ・バイ・ワイヤ (fly-by-wire, FBW) の時代となり、操縦装置の配置自由度が高まっている。これはデジタルコンピュータの発展に伴う自動操縦制御の変遷とも関連している。
  • 高揚力装置 (high-lift device): フラップ (flap)・スラット (slat)
  • スポイラ (spoiler): エアブレーキの話は忘れていた。こういうのが付いてるかどうかは飛行機による。大型ジェット旅客機ならほとんどついていると思うが…。グラウンドスポイラは着陸(タッチダウン)後の減速で使うので、見たことがある人も多いと思う。このとき同時に、エンジンの横のカバーが開いているのは、スラストリバーサ
  • 翼端デバイスウィングレット (winglet) など
  • ロール (roll)・ピッチ (pitch)・ヨー (yaw) とは、飛行機の機軸周り・左右軸周り・鉛直軸周りの回転(自転)。回転の正方向がどちらなのかは、まず軸のベクトルを考えてから右ねじの法則で考えれば良い。
  • 座標系 (coordinate system, coordinates) の話: 通常、動かないグローバルな座標系(世界座標系・地球座標系・慣性座標系)と、飛翔体とともに移動するローカルな座標系を考える。後者はいくつもあってよい。たとえば機体座標系(動物の胴体座標系)は重心位置と2ベクトルで決められる(残りの1ベクトルは外積から)。飛行機の場合はロール・ピッチ・ヨーの関係で前・右・下にxyzをとる。生物でも同じ定義でもいいが、下がzは直感的にわかりづらいので変えることもある。自分のグループは後ろ・右・上をxyzにしていた。更に、胴体座標系以外に「ストロークプレーン座標系」や「翼座標系」もとることがあるし、「骨1本の座標系」や「羽根1枚の座標系」もとってよい(ロボット的・マルチボディダイナミクス的)。
  • 翼型 (airfoil, aerofiol): 翼の断面形状 (wing cross section)。ある平面で翼を切った際の断面。「ある平面」は…流れ方向または翼長方向のベクトルと、背腹方向または鉛直方向のベクトルとでなす平面、あたりか。
  • 『トンボの翼型は平面でザラザラした表面を持つため、低レイノルズでの飛行能力は非常に高くなっている』といまの日本語版ウィキペディアの[[翼型]]にはあるが…{{要出典}}ですね
  • 翼幅 (wingspan) と翼長 (wing length)。鳥の翼長は、概ねこの図のような感じ→ WikiMedia Commons の図。ただし Conflicting Terminology for Wing Measurements in Ornithology and Aerodynamics なんていう論文も出ているくらいに混乱はある模様。
  • 翼弦長 (chord length): ある翼断面について、前縁と後縁の距離。スパン方向位置によって翼弦長が違う場合、それらの平均をとったものを平均翼弦長という(そのまんま)。
    • この話では平均翼弦長はアスペクト比につなげているが、翼の Reynolds 数(前回参照)を計算するときの代表長さも平均翼弦長を使うことが多い、と言うのを忘れていた。
    • この話では「翼弦」を連発しているが、実際に話すときは「コード」とか「コードレングス」を連発する。
  • アスペクト比 (aspect ratio): 翼の横方向の幅を縦方向(流れ方向)の長さで割った比率で、無次元。翼幅/平均翼弦長 (b/cm)、または翼長/平均翼弦長 (R/cm)。平均翼弦長が不明で翼面積がわかっている場合は、翼幅^2/翼面積 (b2/S)。
  • 翼平面形 (wing planform): 単に平面形ともいう。楕円が翼幅方向の吹き下ろし均一(揚力係数均一)で最適だが、適切なテーパーをかけた長方形…要は台形でも似た性能が実現できて製作は容易なので、現代の旅客機はほとんど台形。翼端に向かうほど翼弦が小さい方が空気力学もよいが、構造的にも良いことは直感的にわかるはず。更に羽ばたきにもなると…
  • 後退角・前進角: [[翼平面形#後退角効果]]
  • 上反角と下反角: 上反角効果(後退角・高翼)
  • 高翼・中翼・低翼。実例として生物はだいたい高翼。ジェット旅客機は低翼。戦闘機はかつては中翼だったかも。最近のは高翼。輸送機も高翼。高翼機はむしろ下反角を持つこともある(軍用練習機・輸送機や猛禽)。猛禽はさらに前進翼ぽい。
  • 最近 Nature に出ていた論文 = Harvey et al., 2022: 少し前にそこそこ読み込んで、内輪の勉強会で紹介したので、この podcast で論文紹介してもいいな…といま気づいた。
  • 今回漏れた話: キャンバ(単に忘れていた)や2次元翼と3次元翼の話あたりはあったほうが良かったか…。他にも飛行安定性(トリムとは、とかタブなども)とか、エンジンやプロペラなど推進関係の話とか、各種システムなど、いくらでもあるが、空気力学ではなく航空機の話になるな…もうなってるが。あと、実際の研究方法についてのお話(風洞実験や数値計算)ももっと入れたほうがよかったかも。まぁ際限なく長くなるんでね…。とはいえ、自分が好きな Burt Rutan の航空機の話はしていきたいところ(無給油無着陸での世界一周を初めて成し遂げた飛行機 Voyager とかそういう)。

 

今回はクリック的なノイズやクチャクチャ音・ブレスなどを減らそうとして lowpass filter したことで、たしかにそれは減ったけど全体的な音質もボンヤリしてしまった。もとの音源は残ってるけどやり直すのが面倒なので当面はこれで…

 

 

論文読み: Ellington スズメガ前縁渦 (LEV) 関連論文群

基本情報

1996年から1998年にかけて、スズメガ(蛾)やそのモデルを用いて前縁渦 (leading-edge vortex, LEV) の研究が精力的に行われ、関連する一連の論文群が発表された。

まず Ellington et al., 1996, Nature の論文 (letter) とそのサポート的論文群がある。Nature の letter は 1996 年12月であり、その時点では他の3本はすべて (in the press) と書かれていた。実際にこれらはすべて1997年3月の同じ issue にページ数的に連続して掲載された:

  • 先行するD論。読めてないがおそらく下記 Willmott et al., 1997 の PTRSB と JEB 2本をすべて含んだような内容ではないだろうか。Willmott, A. P. (1995) The mechanics of hawkmoth flight. Ph.D. thesis, University of Cambridge.
  • 全体のまとめ的論文【ブログ記事】Ellington, C. P., van den Berg, C., Willmott, A. P. and Thomas, A. L. R. (1996). Leading-edge vortices in insect flight. Nature 384, 626–630. DOI: 10.1038/384626a0
  • Nature 論文のうち、スズメガの煙可視化実験の部分。Willmott, A. P., Ellington, C. P. and Thomas, A. L. R. (1997). Flow visualization and unsteady aerodynamics in the flight of the hawkmoth, Manduca sexta. Philosophical Transactions of the Royal Society B 352, 303–316. DOI: 10.1098/rstb.1997.0022
  • Nature 論文のうち、拡大羽ばたきロボットの部分で、かつ全体的な渦構造について。van den Berg, C. and Ellington, C. P. (1997). The vortex wake of a “hovering” model hawkmoth. Philosophical Transactions of the Royal Society B 352, 317–328. DOI: 10.1098/rstb.1997.0023
  • Nature 論文のうち、拡大羽ばたきロボットの部分で、かつ前縁渦の詳細について。van den Berg, C. and Ellington, C. P. (1997). The three-dimensional leading-edge vortex of a “hovering” model hawkmoth. Philosophical Transactions of the Royal Society B 352, 329–340. DOI: 10.1098/rstb.1997.0024

その後、1997年11月に J. Exp. Biol. (JEB)*1 に連続2本、主に羽ばたき運動の詳細の論文が、更に1998年2月にはやはり JEB に初の流れの数値シミュレーション(computational fluid dynamics, CFD, 数値流体力学とも)の論文が掲載された。

  • スズメガホバリングと前進飛行時の羽ばたき運動について。Willmott, A. P. and Ellington, C. P. (1997). The mechanics of flight in the hawkmoth Manduca sexta. I. Kinematics of hovering and forward flight. Journal of Experimental Biology 200, 2705–2722. DOI: 10.1242/jeb.200.21.2705
  • Willmott, A. P. and Ellington, C. P. (1997). The mechanics of flight in the hawkmoth Manduca sexta. II. Aerodynamic consequences of kinematic and morphological variation. Journal of Experimental Biology 200, 2723–2745. DOI: 10.1242/jeb.200.21.2723
  • スズメガモデルのCFDについて。Liu, H., Ellington, C. P., Kawachi, K., van den Berg, C. and Willmott, A. P. (1998). A computational fluid dynamic study of hawkmoth hovering. Journal of Experimental Biology 201, 461–477. DOI: 10.1242/jeb.201.4.461

*1:我々の業界では単に JEB ジェーイービーと呼ぶ。他の生物屋さんだと J. Evol. Biol. を JEB と呼ぶ場合もあるので注意。

論文読み: Leading-edge vortices in insect flight

基本情報

  • Ellington, C. P., van den Berg, C., Willmott, A. P. and Thomas, A. L. R. (1996). Leading-edge vortices in insect flight. Nature 384, 626–630. DOI: 10.1038/384626a0

関連する論文がたくさん出ている→ 論文読み: Ellington スズメガ前縁渦 (LEV) 関連論文群 - dynamicsoar's log を参照。

内容

概要

いわゆる「マルハナバチのパラドクス」と呼ばれる現象、つまり、羽ばたきする昆虫の翅に対して従来の固定翼機(飛行機)用の空気力学を適用すると揚力が自重に満たない、という現象の解決。何らかの非定常的な空気力発生メカニズムで追加の揚力を生成しているはずだが、いくつかの仮説は提唱されていたものの、決定的な答えがなかった。本研究では主に2つの実験(スズメガのテザード飛行と、拡大模型による羽ばたき実験)によって、羽ばたきに伴って翅の上面に生じる前縁渦 (leading-edge vortex) およびそれがもたらす失速遅れ (delayed stall) または動的失速 (dynamic stall) がその追加的な揚力であることを明らかにした。同時に、別の仮説である回転揚力 (rotational lift) ではない(整合しない)ことも示した。

実験1: スズメガまわりの流れの煙可視化

スズメガ (Manduca sexta) を棒の先端に固定して、吹き出し風洞の出口後方5 cmの位置でテザード飛行させて、煙で流れを可視化した。胴体の角度は別に行った自由飛行の撮影で決定している。棒は体重計に取り付けられており、スズメガの羽ばたきが体重の70%を支えていないケースは採用しなかった。撮影はカメラ2台を左右に並べて(頂角10度)ステレオで行っている。カメラの 1/30 s というのは Willmott et al., 1997 を読むとシャッタースピードだとわかるが、そうなると翅の先端の羽ばたき速度に対してはあまりにも遅くてモーションブラーが絶対に起きる。これはもう無視して、煙だけしっかり見たいということだろう。煙自体も多少モーションブラーするような気もするが…

煙は鉛直方向と風速方向にシートを形成しているため、1回の実験では翅(翼)の翼長方向の特定の位置の流れしか可視化できない。そのため、スズメガの方を左右に動かして、色々な位置での流れを見ている(おそらく5,6箇所?別の論文に詳細がある)。

実験2: 拡大羽ばたき翼(ロボット) flapper まわりの流れの煙可視化

スズメガの煙可視化のいいところは「本物」であること(テザードだけど)。なのだけれど、見づらい。なので、flapper と呼ぶ拡大羽ばたき翼模型(ロボットと言ってもいいかも)を作って、ゆっくりと羽ばたかせて、かつ前縁から煙を吹き出すことで、流れ場をより明確に可視化する実験を行った。左右2枚の翅が機械的にリンクしていて対称の羽ばたきを行う。どうも回転はちゃんと3自由度あったようだ。Fig. 2 では煙に色がついているように見えるが、実際には色付きの煙を流したのではなく、あとから Photoshop 3.0 でつけている。ようするにわかりやすくするためのアノテーションにすぎない。てっきり色が異なる3種類の煙を流したのだと思っていたが全く違った。これは今ならキャプションにも書いていないとまずいだろう…。

相似則の確認

翼幅 (wingspan) が 1.03 m とあるので翅1枚の長さは 0.515 m (515 mm) 程度だろう。これは実際のスズメガ (Manduca) の約10倍とのこと。スズメガの羽ばたき周波数は約26 Hz(1秒間に26回羽ばたく)なので、空気力学的な相似性 *1 を保つために、flapper の羽ばたき周波数は 0.3 Hz とした。いちおう確認しておこう。まず Reynolds 数 Re の定義は一般に代表速度 U, 代表長さ L, 流体の動粘性係数 \nu *2 に対して  \mathrm{Re} := \frac{U L}{\nu} だが、ホバリングする昆虫の場合、代表速度には翼端の平均速度  U_\mathrm{tip} := 2 \Phi R f を使い、代表長さには平均翼弦長  c_\mathrm{m} を使うことが多い*3。ここで \Phi は羽ばたき振幅、R は1枚の翅の翼長、f は羽ばたき周波数。すると、スズメガの Reynolds 数  \mathrm{Re_{moth}} は、

 \displaystyle
\mathrm{Re_{moth}}
:= \frac{ U_\mathrm{tip,moth} \, c_\mathrm{m,moth} }{ \nu } \\
= \frac{ (2 \Phi R_\mathrm{moth} f_\mathrm{moth}) c_\mathrm{m,moth} }{\nu} \\
= \frac{ (2 \Phi R_\mathrm{moth} \cdot 26)  c_\mathrm{m,moth} }{\nu}

一方、flapper の Reynolds 数  \mathrm{Re_{flapper}} は、仮にサイズがちょうど10倍だと仮定すると、

 \displaystyle
\mathrm{Re_{flapper}}
:= \frac{ U_\mathrm{tip,flapper} \, c_\mathrm{m,flapper} }{ \nu } \\
= \frac{ (2 \Phi (10 R_\mathrm{moth}) f_\mathrm{flapper}) (10 \, c_\mathrm{m,moth}) }{\nu} \\
= \frac{ (2 \Phi (10 R_\mathrm{moth}) \cdot 0.3) (10 \, c_\mathrm{m,moth} ) }{\nu} \\
= \frac{ (2 \Phi R_\mathrm{moth} \cdot 30) c_\mathrm{m,moth} }{\nu}

となる。つまり模型の羽ばたきが若干速い。具体的な数字としては、 R_\mathrm{moth} = 0.0515 (m) のほか適当に  \Phi = 140 (deg) = 2.44 (rad),  c_\mathrm{m,moth} = 0.015 (m) とすると、 \mathrm{Re_{moth}} = 6534, \mathrm{Re_{flapper}} = 7540 となる。概ねあっているが、正確には模型は実物の10倍ではなく9倍程度なのかもしれない(0.3 * 9.32 が約26になる)。

感想

ここから時代が始まったとすら言える記念碑的論文なのに、きちんと読み込んでいなかったことが恥ずかしい。英語がものすごく読みやすい(ところどころ内容でわからなかったり high-life という typo はあるがそういう問題ではなく)。図も、いまの自分が見るとかなりわかりやすい。

*1:Reynolds 数などの無次元数を2つの系で一致させる。Reynolds 数の場合は Reynolds の相似則などと呼ばれる。

*2:約[tex: 1.5\times10^-5 \mathrm{m2/s}].

*3:代表速度に翼端ではなく 3/4 翼長位置の速度など、違うものを使うこともある。