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主に研究関係のメモ

【論文読み】世界一大きな(重い)ハチドリのエネルギ消費は他のハチドリのスケーリングから外れてはいない

対象論文

Fernández, M. J., Dudley, R. & Bozinovic, F. 2011 Comparative energetics of the giant hummingbird (Patagona gigas). Physiol. Biochem. Zool. 84, 333–340. (doi:10.1086/660084)

概要

対象動物

  • giant hummingbird(オオハチドリ、学名 Patagona gigas).
  • 現状、世界一重いハチドリ。ハチドリ全体としては、ほとんどが6 g以下で、それ以上も 6-12 g である。Giant hummingbird は質量が20 gもあり、二番目に重いハチドリの2倍近くと非常に重い。
  • にも関わらず、giant hummingbird は飛行のつらい*1高地を含む 0-4500 m に分布する。

先行研究と仮説

  • 先行研究によると、DEE*2/BMR*3 > 7 は生理学的に維持不能と考えられる。
  • giant hummingbird はこの限界に近いのではないかという仮設を立てた。もしそうなら、体重の増加につれて、DEEはBMRよりも速く増加するはずだ。

手法

  • giant hummingbird と他の3種を南米のチリで捕獲し、BMR, DEE, HMR*4を調べた。
  • DEE は DLW (doubly labeled water) で調べた。日本語では二重標識水と呼ぶようだ。これは大まかにこういうことのようだ:運動前に水素と酸素の同位体を注射する。このときの同位体の量は known であり、これと、運動後の同位体の比率から酸素消費量がわかり、そこからエネルギ消費を推測できる。そしてこれを時間(今の場合は1日*5)で割れば代謝率が得られる。
  • BMR は、鳥を夜間チャンバの中に入れて、そのチャンバに流入・流出する空気から酸素消費率を計測した*6
  • HMR は酸素マスクを使って計測した。具体的な方法が読んでもいまいちよくわからない。やはりこれもチャンバ内で酸素マスクから酸素を供給し、出て行くところでどれだけ減ったかを見ている、ということかな。
  • BMRを基準として、2つの比率を定義した*7
    • sustained metabolic scope := DEE/BMR(継続可能な無次元代謝率、的な)
    • maximum metabolic scope := HMR/BMR(最大の無次元代謝率、的な*8
    • これらが一般に使われている表現なのかは不明。
  • 自分たちで実験した他に、文献から13の種の DEE, BMR, HMR を探し出した。これらの値は、スケーリング(体重の大小に伴う代謝率の大小の関係)を調べるのに使った。
  • また、phylogenetic*9 な考慮も行った。これには McGuire et al. (2007) のデータ、McGuire からの personal communication による branch length, および Mesquite というソフトと、このソフト用の PDAPモジュールを用いた。

結果

  • giant hummingbird は他のハチドリの allometric scaling から外れていなかった。
  • giant hummingbird の sustanined metabolic scope は 5.6 であり、これは他のハチドリの値(= 3-4程度)よりは高いが、理論的に提唱されている endotherms(恒温動物)の最大値 (= 7) よりは低かった。

議論

  • 実は計測した DEE が、野生での DEE よりも低く出ている可能性がある。なぜなら、野生と違って計測が行われた aviary ではハチドリは単一であり、ネクターも自由にいくらでも手に入ったため。また、Stiles (1971) によると、captivity*10 の Anna's hummingbird は野生下に比べて半分の時間しか飛行していなかったという(DEE は「飛行した時間」ではなく単純に「1日」で割っているので、これは単純に DEE の低下として現れる)。同じことが giant hummingbird でも起こっていたのかもしれない。
    • 一方で、captivity という環境自体がストレスとなり、DEE を増やす方向に働いている可能性もある(これも Stiles (1971) の指摘)。
  • ホバリングよりも他の行動の方が実は本当の瞬間的な代謝率は大きい。つまり、4,500 mで暮らすような giant hummingbird はさすがに生理学的な上限に近いだろう。したがって、ホバリング以外の行動をする事も考えると、これ以上の大型化をしようとすると低地に移行せざるを得ないのではないか。

感想

  • まず2番目に重いやつよりも2倍以上も重いというのが非常に不思議。間のやつは、淘汰されたのか?だとしたらなぜ?それには、この論文では答えていない(そもそもそういう question ではない)。
    • 一方で、そんなにも違うのに metablism としてはスケーリングに乗っていることもやや意外。さらには酸素濃度・空気密度ともに低い4000 m級の高地でも問題ないと。そうするとバイメカだけなら、もう少し大型まで行けるのかもしれない。いけるといっても、総合的には不利になって、このサイズが限界なのかもしれない。← ていうかこれ、Discussion に書いてた…
    • というより、やっぱり、実際に現実的なのは2番目に大きな種までで、giant hummingbird には何かしら環境特異性というのか、特殊化というのか、そういうのがありそうなのだが…。当然、彼女らも(彼女らこそ)このあたりは気になっているはずだから、既にそういうことも調べているかもしれないが。
    • 2番目に重い種ってどれなんだよ!気になる… ← Sword-billed が 12 g くらい行くみたいなので、こいつかもしれない Sword-billed Hummingbirds, Ensifera ensifera
  • DEE, BMR, HMR でそれぞれ異なる手法を用いて代謝率を計測しているが、相互の validation は大丈夫なのか?たとえば、同じ手法を使って同じ値を出せるか、という検証は過去にされているのだろうか?(たぶんされているのだろうが)
  • Phylogenetic treatment のところはやっぱりまだ全然わからない。勉強しなきゃいけない。
  • だいぶ前に読んだので内容忘れてる…(なのでとりあえず書いたとこまでUPしようと)

*1:酸素濃度と空気密度が低い。特につらいのは後者。Dudley や Chai が 1990 年代後半に詳しく調べている。

*2:daily energy expenditure, 一日平均のエネルギ消費利率。

*3:basal metabolic rate, 運動していないときの基礎代謝率。

*4:hovering metabolic rate, ホバリング時の代謝率

*5:普通はもっと長くするようだ。ハチドリは代謝率が高いので短くてもよいのだろう。

*6:この装置、僕がLundにいたときに他の人達がよく使っていた。BMRは安静状態の値でなければいけないので、建物を夜に出入りするときは静かにやれと言われた。うるさくすると鳥が起きてしまい、計測値が振動してしまうとのこと。

*7:BMRで無次元化・正規化した、と言ったほうがいいのかもしれない。

*8:実際にはホバリング中の代謝率が最大ではない。上昇や急旋回などの方が大きくなるはずで、これは論文にも書かれていた。Dudley なので抜かりはない。

*9:日本語だと…系統発生学?

*10:日本語だとなんだろ…飼育?捕獲?