2018 Leicester helicopter crash の報告書 AAIB Bulletin S2/2018 を読んだ

まえがき

の続き。

ja.wp の記事 の記述では、コッターピンが外れてから溶着とあるが、順番が逆だと思う。

ヨー操舵入力の流れ

まずヨーの操舵入力がどのようにテールロータのピッチ変更を行うか。正直、図を見ないと(見ても)わかりにくいのだが、おそらく以下のようになっている:

操舵入力(ペダル) → 操舵ケーブルの前後運動 (push or pull) → ヘリコプタ尾部のベルクランク → レバー → レバー端のピン(?) → ピンキャリア → コントロールシャフト(レバー側)→(シャフトが押し/引きされる)→ シャフト後端のベアリング → ピッチ変更機構(詳細略)

いくつかポイント

  • 重要なのは「シャフト後端のベアリングのインナーレース」までは、シャフトは長軸周りの回転をせず、前後の押し引きのみが起こるべきである、ということ。
  • 実際にはレバー中央がアクチュエータのソレノイドバルブにつながっていて、フィードバック制御が入るようだが、そこは省略。
  • それから、「レバー端のピン(?)」「ピンキャリア」の部分は大事なんだけど、残念ながら情報が不足しているので、想像が入っている。要するにレバーの回転をシャフトの前後運動に変換するところ。おそらく次のようになっている
    • シャフト端部にはネジが切ってあり、その途中にコッターピン用の穴もある。
    • まずシャフトにピンキャリアという部品を入れる。写真が不鮮明だが、これは要はレバー側とシャフト側の2つの円柱用の穴が空いた部材だろう。両側とも回転はすべりだけで、接合はされないと思われる。シャフト前後方向への並進自由度の制約としては、後ろ側へはおそらくシャフト径で制約していると思われる。前側は入れるために細くないといけないので、キャッスルナット (castlated nut) という特殊なナットをシャフト端部のネジ切り部にはめることで位置を制限している(これは確定)。このように、ピンキャリアとキャッスルナットはお互いに接触はするかもしれないが一体となって回転するものではなく、むしろ独立しているべきである。
    • キャッスルナットというのは、王冠のように縁に凹凸のあるナットで、この凹部とシャフトの穴にコッターピンを通すことで、ナットとシャフトの回転(緩み)を防ぐもの。

事象シーケンス

以上を前提として、事象シーケンスは以下のようになると考えられる(だいたい報告書に書いてあるが一部は推測):

  1. コントロールシャフト後端部のベアリング内外レースが(グリス不良かなにかで)正常に回転しなくなった(数度しか動かない状態)。
  2. 本来はベアリングのおかげで回転しないはずのコントロールシャフトが(テールロータと一緒に)回転し始めた。
  3. シャフト前端部(レバーやアクチュエータの側)では、シャフトと一緒にキャッスルナットも回転し始めた。コッターピンも当然一緒に回転するので、この自転ではせん断破壊しないと思われる。
  4. キャッスルナットと接触していたピンキャリアは、レバーと同じ座標系にいるため非回転。したがって、この2者の接触面が摩擦接合されてしまった。シャフト=キャッスルナットが回転していない通常状態であれば、ピンキャリアは単に前後方向に押されるだけなので、接触しても接合などするはずはなかった(なので間に接合防止部材なども入っていなかったのだろう…というかそんな想像もしなかったかもしれない)。
  5. キャッスルナットがレバー座標系=静止側に固定されてしまい、シャフトと一体回転できなくなったことで、両者をつなぐコッターピンに過剰なせん断応力が生じた。これによりコッターピンの頭部と尾部(端部?)が吹き飛んだ。
  6. シャフトがキャッスルナットおよびピンキャリアから抜け、レバーシステムとの接続が失われた。
  7. 操舵入力がテールロータに伝わらなくなり、ヨー制御が不能となって墜落に至った。

感想

この状況では「コッターピンがせん断破壊されなければ…」という想定は無理がありそう。防ぐべきは第一に後部ベアリングの回転不良だろう。また、キャッスルナットとピンキャリアの間になにか接合を防ぐような部材があれば少しはよかったかもしれないが、長時間の高速回転に耐えられるものだろうか…。

文献