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モモンガ (flying squirrel) の飛行に関する記事への感想

aerodynamics biomechanics research

ソースと概要

http://biographic.com/posts/sto/moonlight-gliders

ざっくり言うと、「モモンガの滑空ってあんまり制御してないっぽいイメージだったけど、すげーしてるよ!前縁フラップ・ウィングレット・VGが全部載せですごいし、さらに翼面を波打たせて揚抗比増大してるね、間違いない」という話。個人的には制御についてはまぁしてるでしょというイメージだったので、そこは「お、おう」感があって、後半では出典がまったくないのにどんどん novel mechanism 出ちゃうもんだから「えー…」ってなりますよね。なので通常ならスルーしたいところなんだけど、風洞実験してると言ってるし results は信じておく。ただし解釈には色々と疑問があって、簡単に言うと、「このひとが言う能動的な制御 (active control) のうち一部は本当は受動的な変形 (passive deformation) なのでは?」って感じですかね。ラボページみるとどうも遺伝とか神経・生理寄りっぽいので、もしかしたら in flight で EMG やっててガッチリ証拠掴んでるぜ、ってことなのかもしれないけども。でもそれだけでは流体構造連成の否定にはなってないわけで、そこらへんどうなの?と思えど、Results を見ずに Discussion だけ読まされてるようなもんで、どうしようもない。ただまぁ、随分と内容を喋っているので、普通に考えると論文投稿済みかアクセプト済みなのだろう。でないとしたら理学屋さん特有のオープンネスだろうから、それはそれでリスペクトする。あ、写真は素晴らしいと思います、はい*1

ツッコミ

実験的に、ツイート → ツッコミというふうにやってみるテスト。

まずこの受動的 (passive) とは何かだけど、ここでは「自分の筋肉を使って翼を動かさない」くらいの意味合いのようだ。通常、動物の飛行は「羽ばたき飛行 (powered flight, flapping flight)」と「滑空 (gliding)」に大別されるが、ここでいう受動的・能動的というのはそれとは別の軸。

『翼間の仰角…記録されている』のところを訂正。原文は

For example, the squirrels were frequently recorded moving through the air with extraordinarily high “angles of attack,” which is the angle between the wing—in this case the patagium—and the direction of oncoming airflow.

ここで angle of attack は迎角(げいかく)ないし迎え角(むかえかく)→ 迎角 - Wikipedia。で、この定義を「翼(今の場合は飛膜)と、気流が来る方向との、なす角」というふうに書いている。これは不親切/不正確で、正確には翼弦 (chord) とのなす角、とすべきなのだが…まぁ一般向けの記述だしな…。

リフト (lift) これはふつう「揚力」と訳しますね…。

要するに「航空機の翼では60度みたいな大迎え角では失速するよね(というか20度くらいでするよね)、それに対してモモンガすげー」と。まぁ羽ばたき屋からすると「はい。」っていう…。もちろん興味深いんだけどそんな「メッチャ感動!!まさか失速しないとは!!!」ではなくて「うんまぁそうだろうね。ところで…」っていう感じですかね。わからんか…

んー、いちおう間接的な回答はあると思う。つまり、「滑空中に、能動的に翼形状をガンガン変えるという制御をしているから、安定して飛べるよ」ということと、「飛膜を波打たせて空気力増強してると思うよ」という2点だろう。個人的には後者には懐疑的だけども。

『操作性』 → 原文は "Increased speed enhances maneuverability," なので、直訳すると「上昇したスピードは機動性を増す」くらい。

ところでまずこのステートメントは真だろうか?機動性とはなんだろうか?一般的には、旋回率・旋回半径・ロールレートのような回転に関わる値で判断されるのではないだろうか。とすると単に速度を増せばいいというものではない。マッハ 3.5 で飛ぶ SR-71 の旋回半径は 100 km を超えるが、機動性が高いとは誰も言わないだろう。マッハ 0.8 で飛ぶ戦闘機の方が「高機動」と感じるだろう。もちろん逆におそすぎると、操舵に使う空気力が小さすぎるということはあるのかもしれないが…。

次に後半だが… 確かにそう書いてある。けど、正直この時点では何言ってるのか意味不明だった。後半を読むと、飛膜を波打たせることで空気力増強云々、という話が出てくる。しかし出典がないので、これが PIV をしたのか、とか、波打ちのない場合との空気力の比較実験をしたのか、とかが全然わからない。「湖を超えるほどの滑空比は異常」というのが根拠のようだが、普通はそういう場合まず追い風の影響を考えるべきだろう。原文中に追い風への言及はない。論文でもなかったら査読者が突っ込んでくれるだろう…。

ここの forward acceleration って要するに推力のことなんだよね。要するに、前縁フラップ/スラット状に前にせり出した前縁部分に低圧部(言ってないがたぶん前縁渦)ができて、それによる空気力ベクトルが上方かつやや前方を向くということだろう。ただしこの状態では抗力も大きくなるので、高速時には折りたたんで抗力最小化したり、長距離飛行時には真っ直ぐ伸ばして揚抗比を上げたり、ということ。

この辺はだいたいそうなんじゃないでしょうかという感じ(訳じゃなくて内容ね)。僕が神経・生理に詳しくないこともあるけど。あ、control はふつう「制御」って訳してしまいますね。

ただ一点、何度も言うようだけど、『うねり』(原文では billowing)が能動的ってのはちゃんとエビデンス示してくれ、と。一般向けに言うと、ファミレスの前に立ってるのぼり、風でバタバタしてるよね。あれを見て「素晴らしい!能動的な制御だ」とか思わんでしょふつう、ということね。つまりバタバタしてたら普通はまず「うわー風であおられてるなー」って思うはずでしょう。その場合後流域が広がって圧力抗力が増大するのがふつうのはず。そうじゃないというなら、もちろん興味深いのだが、こんな言葉だけで言われてもなぁ、ということ。おわかりいただけるだろうか…(わからんか)。

後半がセンセーショナル。すでに言及した『うねり』みたいな話の他に、たしかに長い毛が局所的な乱流(アカデミックな文脈では乱気流よりも乱流が一般的)を生むとかある。これはフクロウの風切羽(翼前縁を構成するもの)の前縁にある serration を意識してるのかもしれないが、いずれにせよ、現在形だし、妄想とは思えないので、これはきっと風洞実験をしているのだろう。僕の予想では、

  1. 生きたモモンガを使った風洞実験 → やってるとあるのでやってるんだろうが、この「毛」については別の実験だと思う。もしやってたらスゴイ。
  2. 剥製での風洞実験 → これがありそうだが、そうなると「毛」単体はいいとしてうねり的なものとの合わせ技(←というようなことを言っているのだ…)をどうやって調べるのだろう?毛をカットするのは簡単だろうが、死体ではうねりは再現できないだろう。
  3. 模型での風洞実験 or 数値シミュレーション → 形状計測 & 作成が大変だろうから、もしやってたらスゴイ。数値計算なら、原理的には毛の有無やうねりの有無も再現できるっちゃできる、んだけど、そんな超大規模マルチスケールやるの?というのはある。また、微細構造だけでなく材料の剛性まで再現するのは模型・計算とも大変に過ぎるだろう。まぁ、やってないと思う…。

フィールドだけじゃなくて

As more and more squirrels flew through wind tunnels and along blocked-off biology department corridors

と言ってるんだよなぁ…。フィールドだけだったら「なにこのおっさん妄想言ってんだ」で終了だったんだけど、これがあるので、どこか飛行バイオメカニクスやってるところとの共同研究なんだろう。ていうかぶっちゃけ UCB の Robert Dudley だと思う。ずっと滑空やってるので。

といったところでツッコミ終了。

ところで

flying squirrels are so overbuilt for flight that simple laboratory challenges of gliding from perch to perch, or up and down flights of stairs at the prodding of research assistants, were not enough to reveal their complete flight repertoire.

これには完全に同意。

*1:ただ、ステレオ撮影ならいいけどまたカメラ1台で「確実に」とか「間違いなく」みたいに言ってるとしたら…と思ってしまうのはどうしようもない。