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「ハチドリは一秒間に80回も羽ばたく」は本当か → たぶん本当だけど一般的な速さではなく、上限付近

research bird biomechanics

ちょくちょく出典なしで出てくる表現なので、気になったので調べてる。まだ途中だけどたぶんいまメモっとかないと永遠に書かないので書いとく。

羽ばたき回数の計測例

自分の Mendeley に入ってた論文のうち、ハチドリの「ホバリング前進速度0)」について軽く調べたところ、

  • 7種(6研究グループ程度)
  • 体重 3-5 g 程度
  • 翼長(片翼)50-70 mm程度
  • 羽ばたき周波数(1秒間の羽ばたき回数)は 30-50 Hz 程度

だった。ただし主に北米のハチドリ (ruby-throated, rufous, Anna's が多い)である点には注意が必要かもしれない。

References(順番はランダム)

  • Hedrick, T. L., Cheng, B., & Deng, X. (2009). Wingbeat Time and the Scaling of Passive Rotational Damping in Flapping Flight. Science, 324(5924), 252–255. 

    http://doi.org/10.1126/science.1168431

  • Altshuler, D. L., Quicazán-Rubio, E. M., Segre, P. S., & Middleton, K. M. (2012). Wingbeat kinematics and motor control of yaw turns in Anna’s hummingbirds (Calypte anna). Journal of Experimental Biology, 215(Pt 23), 4070–4084. 

    http://doi.org/10.1242/jeb.075044

  • Tobalske, B. W., Warrick, D. R., Clark, C. J., Powers, D. R., Hedrick, T. L., Hyder, G. A., & Biewener, A. A. (2007). Three-dimensional kinematics of hummingbird flight. Journal of Experimental Biology, 210, 2368–2382. 

    http://doi.org/10.1242/jeb.005686

  • Chai, P., & Dudley, R. (1995). Limits to vertebrate locomotor energetics suggested by hummingbirds hovering in heliox. Nature. 

    http://doi.org/10.1038/377722a0

  • Personal observation
  • あと他にも多少はありそうだけどあんまり違いが期待できないのでやめた

じゃあ 80 Hz って何よ

ググったところ、80 Hz というのはどうやら Greenewalt という有名なアマチュア研究者による Hummingbirds という本(1960 年)にあるらしく、これは最小のハチドリである bee hummingbird(Mellisuga helenae, マメハチドリ)についてらしい。残念ながらこの本はまだ読めてない。体重は 1.6-2 g とのこと(英語版 Wikipedia 情報)。

傾向として、体重が小さい(軽い)ほど周波数が大きいのはわかるし、翼長も短くなるのだから、80 Hz が異常に高速とは言えない。

というわけで、日本語版ウィキペディアハチドリ に今現在書いてあるように 80 Hzは「最大で」なのではないかというのが一応の結論。

ただ、既述したように今回調べられたのは北米の種が多くて、実際には南米の方が種としては(個体数も?)たくさんいることを考えると、「30-50 Hzが一般的」と言い切るにはまだ早いかもしれない。でも「80 Hz が一般的」というのはちょっと誤解に近いのではないかと。まぁ30 Hzでも肉眼で動きは見えないけどね…

200 Hz !?

あと、Handbook of the Birds of the World - Volume 5 という本には 200 Hz という記述があるらしい。しかも、 bee hummingbird ではなく北米でよく研究されているはずの rufous hummingbird(ふつうの論文は 40 Hz程度)でそれとか…ちょっと信じがたい。

というか200 Hzってハチ(ミツバチが190-230 Hz程度)とかハエショウジョウバエで220 Hz程度)の領域で、筋肉の出力の限界から厳しいのでは?という気がする。少なくとも継続的には。翼端の平均速度は周波数に比例して、抗力が速度の2乗に比例するから、80 Hz の時に比べても抗力が4倍以上にもなるわけだ。更にパワー(仕事率)は速度の3乗に比例…。しかもおそらく rufous の方が bee より翼が多少は長いし重いはずで…。うーん……。一瞬なら出せるのかなぁ…?

余談:翼端速度は音速より十分小さい

なお、

  • 翼長(片翼) 50 mm
  • 羽ばたき振幅 140 deg(やや控えめ。max は 180 度超える)
  • 羽ばたき周波数 200 Hz

の場合でも、羽ばたき運動にサイン波を仮定すると翼端の速度は平均で 50 m/s 程度、最大の瞬間でも 80 m/s 程度なので、音速よりは十分に小さく(海面上標準大気くらいの状況で、それぞれ M = 0.14, 0.24 程度)、圧縮性の影響は考慮しなくて良さそう。アンデスの高地だと音速ちょっと低いけどまぁ大丈夫でしょう…。

ホバリングできる羽ばたき周波数の下限は?

じゃあ逆に一番ゆっくり羽ばたいてホバリングできるのは?というのが気になるところ。最大のハチドリである giant hummingbird(Patagona gigas, オオハチドリ)は 15 Hz とのこと(英語版 Wikipedia 経由だけど論文があった→ http://dx.doi.org/10.1016/0010-406X(67)90342-8 )。

これが下限なのかはハッキリわからないけど、たとえばトンボで 35 Hz程度、スズメガが25 Hz程度、チョウ*1で10-15 Hz程度(いずれも種によって違うが)、ということですでにこれらよりも低い。体重も 19.1 g とツバメくらいある。とんでもねーな。研究してみたい感はあるけど南米行かなきゃか。

 

*1:butterfly frequency で google scholar すると人間の遊泳ばっかりヒットした… "stroke frequency" でもダメ(←これたぶん両者とも困る)。"wingbeat freqeuency" ならいける。