dynamicsoar's log

主に研究関係のメモ

モモンガ (flying squirrel) の飛行に関する記事への感想

ソースと概要

http://biographic.com/posts/sto/moonlight-gliders

ざっくり言うと、「モモンガの滑空ってあんまり制御してないっぽいイメージだったけど、すげーしてるよ!前縁フラップ・ウィングレット・VGが全部載せですごいし、さらに翼面を波打たせて揚抗比増大してるね、間違いない」という話。個人的には制御についてはまぁしてるでしょというイメージだったので、そこは「お、おう」感があって、後半では出典がまったくないのにどんどん novel mechanism 出ちゃうもんだから「えー…」ってなりますよね。なので通常ならスルーしたいところなんだけど、風洞実験してると言ってるし results は信じておく。ただし解釈には色々と疑問があって、簡単に言うと、「このひとが言う能動的な制御 (active control) のうち一部は本当は受動的な変形 (passive deformation) なのでは?」って感じですかね。ラボページみるとどうも遺伝とか神経・生理寄りっぽいので、もしかしたら in flight で EMG やっててガッチリ証拠掴んでるぜ、ってことなのかもしれないけども。でもそれだけでは流体構造連成の否定にはなってないわけで、そこらへんどうなの?と思えど、Results を見ずに Discussion だけ読まされてるようなもんで、どうしようもない。ただまぁ、随分と内容を喋っているので、普通に考えると論文投稿済みかアクセプト済みなのだろう。でないとしたら理学屋さん特有のオープンネスだろうから、それはそれでリスペクトする。あ、写真は素晴らしいと思います、はい*1

ツッコミ

実験的に、ツイート → ツッコミというふうにやってみるテスト。

まずこの受動的 (passive) とは何かだけど、ここでは「自分の筋肉を使って翼を動かさない」くらいの意味合いのようだ。通常、動物の飛行は「羽ばたき飛行 (powered flight, flapping flight)」と「滑空 (gliding)」に大別されるが、ここでいう受動的・能動的というのはそれとは別の軸。

『翼間の仰角…記録されている』のところを訂正。原文は

For example, the squirrels were frequently recorded moving through the air with extraordinarily high “angles of attack,” which is the angle between the wing—in this case the patagium—and the direction of oncoming airflow.

ここで angle of attack は迎角(げいかく)ないし迎え角(むかえかく)→ 迎角 - Wikipedia。で、この定義を「翼(今の場合は飛膜)と、気流が来る方向との、なす角」というふうに書いている。これは不親切/不正確で、正確には翼弦 (chord) とのなす角、とすべきなのだが…まぁ一般向けの記述だしな…。

リフト (lift) これはふつう「揚力」と訳しますね…。

要するに「航空機の翼では60度みたいな大迎え角では失速するよね(というか20度くらいでするよね)、それに対してモモンガすげー」と。まぁ羽ばたき屋からすると「はい。」っていう…。もちろん興味深いんだけどそんな「メッチャ感動!!まさか失速しないとは!!!」ではなくて「うんまぁそうだろうね。ところで…」っていう感じですかね。わからんか…

んー、いちおう間接的な回答はあると思う。つまり、「滑空中に、能動的に翼形状をガンガン変えるという制御をしているから、安定して飛べるよ」ということと、「飛膜を波打たせて空気力増強してると思うよ」という2点だろう。個人的には後者には懐疑的だけども。

『操作性』 → 原文は "Increased speed enhances maneuverability," なので、直訳すると「上昇したスピードは機動性を増す」くらい。

ところでまずこのステートメントは真だろうか?機動性とはなんだろうか?一般的には、旋回率・旋回半径・ロールレートのような回転に関わる値で判断されるのではないだろうか。とすると単に速度を増せばいいというものではない。マッハ 3.5 で飛ぶ SR-71 の旋回半径は 100 km を超えるが、機動性が高いとは誰も言わないだろう。マッハ 0.8 で飛ぶ戦闘機の方が「高機動」と感じるだろう。もちろん逆におそすぎると、操舵に使う空気力が小さすぎるということはあるのかもしれないが…。

次に後半だが… 確かにそう書いてある。けど、正直この時点では何言ってるのか意味不明だった。後半を読むと、飛膜を波打たせることで空気力増強云々、という話が出てくる。しかし出典がないので、これが PIV をしたのか、とか、波打ちのない場合との空気力の比較実験をしたのか、とかが全然わからない。「湖を超えるほどの滑空比は異常」というのが根拠のようだが、普通はそういう場合まず追い風の影響を考えるべきだろう。原文中に追い風への言及はない。論文でもなかったら査読者が突っ込んでくれるだろう…。

ここの forward acceleration って要するに推力のことなんだよね。要するに、前縁フラップ/スラット状に前にせり出した前縁部分に低圧部(言ってないがたぶん前縁渦)ができて、それによる空気力ベクトルが上方かつやや前方を向くということだろう。ただしこの状態では抗力も大きくなるので、高速時には折りたたんで抗力最小化したり、長距離飛行時には真っ直ぐ伸ばして揚抗比を上げたり、ということ。

この辺はだいたいそうなんじゃないでしょうかという感じ(訳じゃなくて内容ね)。僕が神経・生理に詳しくないこともあるけど。あ、control はふつう「制御」って訳してしまいますね。

ただ一点、何度も言うようだけど、『うねり』(原文では billowing)が能動的ってのはちゃんとエビデンス示してくれ、と。一般向けに言うと、ファミレスの前に立ってるのぼり、風でバタバタしてるよね。あれを見て「素晴らしい!能動的な制御だ」とか思わんでしょふつう、ということね。つまりバタバタしてたら普通はまず「うわー風であおられてるなー」って思うはずでしょう。その場合後流域が広がって圧力抗力が増大するのがふつうのはず。そうじゃないというなら、もちろん興味深いのだが、こんな言葉だけで言われてもなぁ、ということ。おわかりいただけるだろうか…(わからんか)。

後半がセンセーショナル。すでに言及した『うねり』みたいな話の他に、たしかに長い毛が局所的な乱流(アカデミックな文脈では乱気流よりも乱流が一般的)を生むとかある。これはフクロウの風切羽(翼前縁を構成するもの)の前縁にある serration を意識してるのかもしれないが、いずれにせよ、現在形だし、妄想とは思えないので、これはきっと風洞実験をしているのだろう。僕の予想では、

  1. 生きたモモンガを使った風洞実験 → やってるとあるのでやってるんだろうが、この「毛」については別の実験だと思う。もしやってたらスゴイ。
  2. 剥製での風洞実験 → これがありそうだが、そうなると「毛」単体はいいとしてうねり的なものとの合わせ技(←というようなことを言っているのだ…)をどうやって調べるのだろう?毛をカットするのは簡単だろうが、死体ではうねりは再現できないだろう。
  3. 模型での風洞実験 or 数値シミュレーション → 形状計測 & 作成が大変だろうから、もしやってたらスゴイ。数値計算なら、原理的には毛の有無やうねりの有無も再現できるっちゃできる、んだけど、そんな超大規模マルチスケールやるの?というのはある。また、微細構造だけでなく材料の剛性まで再現するのは模型・計算とも大変に過ぎるだろう。まぁ、やってないと思う…。

フィールドだけじゃなくて

As more and more squirrels flew through wind tunnels and along blocked-off biology department corridors

と言ってるんだよなぁ…。フィールドだけだったら「なにこのおっさん妄想言ってんだ」で終了だったんだけど、これがあるので、どこか飛行バイオメカニクスやってるところとの共同研究なんだろう。ていうかぶっちゃけ UCB の Robert Dudley だと思う。ずっと滑空やってるので。

といったところでツッコミ終了。

ところで

flying squirrels are so overbuilt for flight that simple laboratory challenges of gliding from perch to perch, or up and down flights of stairs at the prodding of research assistants, were not enough to reveal their complete flight repertoire.

これには完全に同意。

*1:ただ、ステレオ撮影ならいいけどまたカメラ1台で「確実に」とか「間違いなく」みたいに言ってるとしたら…と思ってしまうのはどうしようもない。

Symantec Endpoint Protection (SEP) のアプデができなくなった (behind proxy) → proxy 設定を default から customize に変えたらいけた

タイトルのとおりなのだが、手順をメモしておく。

環境

  • Win 10 Pro 64 bit
  • 大学で behind proxy でネットに接続している

現象

なぜか1週間ほど前から LiveUpdate が失敗していた、ようだ。試しに Windows の設定で proxy を殺して VPN とかしてもダメだった(← NVIDIA とか Adobe など、これで行ける場合が多いのだが)。

対応手順

自分は英語環境なのだが、日本語でもまぁだいたいわかるだろう…

  1. タスクバーで SEP (Symantec Endpoint Protection) のアイコンを右クリック → Open する。
  2. 左のバーのうち Change Settings をクリックする。
  3. 一番下の Client Management の Configure Settings ボタンをクリックする。
  4. 上のタブで、左から3番目の LiveUpdate をクリックする。一番左の General のタブ内にもプロキシの設定があるが、ここだけ変えてもダメだった。
  5. 一番下の Proxy Options の Configure Proxy Options… をクリックする。
  6. 左のタブ (HTTP or HTTPS) で、デフォルト状態は真ん中の I want to use my Windows… というやつになっているはず。これでいけるはずなのだが、なぜかいけないので、一番下の I want to customize my HTTP or HTTPS settings を選択。Host proxy: には proxy.foo.bar.jp みたいのを入れ、 HTTP Port: と HTTPS Port: にはいつものポート番号を入力。以上を終えて OK を押して閉じる。
  7. SEP のメイン画面まで戻り、左のバーから LiveUpdate… を押すと成功するはず。

なぜある時から default でいけなくなったのかは不明だが、まぁいいや…

参考ページ

Git と Atom 用、プロキシ環境(大学)と非プロキシ環境(自宅)を切り替える方法 (Mac OS X El Capitan)

This entry illustrates how to automatically switch proxy settings between "behind-proxy" environment and "no-proxy" environment for Git and Atom editor on Mac OS X El Capitan.

↑ いちおう検索用に…

前提

想定する環境

  • 大学(プロキシ利用 behind proxy): 「proxy.FOOBAR.ac.jp:NUMBER」を使ってね、と言われていることを想定。
  • 家(非プロキシ no proxy): プロキシ設定使いたくない。

mac での設定

前提として、mac で Network Location*1 を複数作って切り替える、というところまではできているものとする。その上で、 git と atom(のパッケージのインストール・アプデ)を使うには、以下のような切り替えようスクリプトが必要になる。

以下のスクリプトは、 Macのネットワーク環境に合わせてHTTP_PROXYを切り替えるシェルスクリプト - Qiita をコピペ改変させてもらっただけ(多謝)。このページで git は問題ないが、atom はまた別の設定が必要だったのでそこを調べた。忘れそうなのでメモしておく。

やること

~/ に .switch_proxy というファイルを作る。その中身を以下のようにする。プロキシ情報と Location は自分の環境に合わせて書き換えること。

スクリプト

# 何度も出てくるので、プロキシ情報を proxy という変数に代入しておく
proxy=proxy.FOOBAR.ac.jp:NUMBER

# mac の Network Location をトリガにする
switch_trigger_location=University

# 大学用
function set_proxy() {
  export http_proxy=$proxy
  export ftp_proxy=$proxy
  export all_proxy=$proxy
  export https_proxy=$proxy

  ## for git
  git config --global http.proxy $proxy
  git config --global https.proxy $proxy
  git config --global url."https://".insteadOf git://

  ## for Atom editor
  apm config set proxy http://$proxy
  apm config set http-proxy http://$proxy
  apm config set https-proxy http://$proxy
  apm config set strict-ssl false
}

# 自宅用
function unset_proxy() {
  unset http_proxy
  unset ftp_proxy
  unset all_proxy
  unset https_proxy

  ## for git
  git config --global --unset http.proxy
  git config --global --unset https.proxy
  git config --global --unset url."https://".insteadOf

  ## for Atom editor
  apm config delete proxy
  apm config delete http-proxy
  apm config delete https-proxy
  apm config delete strict-ssl
}

# if [ "`networksetup -getcurrentlocation`" = "$switch_trigger_location" -a "`networksetup -getairportnetwork en0 | awk '{print $4}'`" = "$switch_trigger_network" ]; then
if [ "`networksetup -getcurrentlocation`" = "$switch_trigger_location" ]; then
  echo "Switch the settings for behind proxy network"
  set_proxy
else
  echo "Unset proxy settings"
  unset_proxy
fi

挙動

Atom に関しては、Network Location を切り替えるたびに、~/.atom/.apmrc ができたり消えたりする(プロキシセットすると生成され、アンセットすると消える)。なのでちょっと重い気がする。たぶんもっと頭いい方法ありそうなのだが、これで動いてるからいいや…

詰まったところ

http://$proxy というところ、これで正しいのだが、最初 http:// が必要だと思っていなくて、 $proxy だけにしていて、ダメだった。これだけで30分くらい無駄にした…

atom での unset のしかたは、ターミナルで $ apm config --help と打ったら set, get, delete, ... が使えるよ、と言ってたので、まぁ delete だろ、と思ってやっただけ。

参考にしたページ

*1:OS言語が日本語だと「ネットワーク環境」らしい。

【本読み】『そして恐竜は鳥になった』

これもとりあえず公開しちゃう。

対象の本

土屋健(著)、小林快次(監修)『そして恐竜は鳥になった』、誠文堂新光社、2013. ISBN 978-4-416-11365-3.

感想など

図書館で借りて読んだ。薄いけど新しいし「嘘っぽくない(フェドゥーシア的な意味で(?))」かなぁと思って借りたら、当たりだった。僕のような初心者にとって、このような変化の激しい業界の内容は、新しいこととわかりやすいことが重要だけれど、どちらも満足いった。もちろん、正確性を判定できるわけではないのだけれど。出典も一般向けにしてはそこそこあったような気がする(そうでもなかったかも)。

読みながら書いていたメモがあったはずだが、大半がどっかにいってしまった…。ツイッターにちょっと残ってるのと、一点だけ、

多くの昆虫は2対四枚の翅をもち、細かく羽ばたかせることで飛翔している。

「細かく羽ばたかせる」とはどういうことだろうか。ここから受ける印象は、「羽ばたき振幅が小さい」ということだが、実際には様々である。ハチなどは確かに割りと小さいが…

あ、あと、覚えているうちでは、風切り羽がなぜできたかというところが僕にとってはハイライトで、いろいろな説を「たぶん違う」と破棄していくのはなかなか面白かったのだけれど、最終的に選んだ(残った)のが「卵を覆うため」みたいなのだった気がするんだけど、あれは、どうなんだろ…。なお、卵が洋梨型なのは転がりにくくするため云々、については Shorebird さんの書評が非常に面白かった→ 書評 「The Most Perfect Thing」 - shorebird 進化心理学中心の書評など

【本読み】『凹凸形の殻に隠された謎』

内容が忘却の彼方に行きそうなので、ここで一旦公開する。

対象の本

椎野勇太『凹凸形の殻に隠された謎 腕足動物の化石探訪(シリーズ:フィールドの生物学)』、東海大学出版部(発行当時は「東海大学出版会」かも)、2013. ISBN 978-4-486-01849-0

感想

率直に言ってメッチャ面白かった。学術的な内容というか、地球科学・地質学・古生物方面の面白さってのが伝わってきた。研究者人生云々、みたいなところはそれほどでもない…というか、面白いというよりは共感した、かな。僕はCFD→生物と逆方向に入った人間で、また、スウェーデンポスドクやったりもしたので、その辺も親近感がある。

疑問点

このへん、本当は論文を読めば概ね解決するはずなのだけれど、メモとして残しておく。

  • そもそも腕足動物の殻とは?ヤドカリみたいに拾ってくるんじゃなくて、自分で作る?気になるのは2点で、固さがどれほどか(流れでは変形しないのか?)と、生体組織なのか(ゆっくりとでも能動的に変形できるものなのか?
  • 「だだっ広い水底にぽつんと置いてある」モデルで良いの?(←ブーメランではある)
  • 変えた変数は、形状以外では、流入方向という yaw と流速の2つだけ?ピッチ角やロール角は変えていない?もしそうなら、どうしてその角度を選んだ?ロールは対称性からわかるとして、ピッチ角はどうやって決めた?
  • 内部構造について。実際には生体部分があるはずで、実際に触手冠について熱く語っている(その重要性がよくわからないのだが…表面積が大きいほど捕食効率が良いとかいうこと?そうであればハッキリそのように書くべきだった)。しかしCFDの形状モデルは、殻のみで中は空洞なのだろうか?おそらくそうだと思う。だとしたら、その妥当性はどう評価するのか?つまり、中に物が詰まっていたら当然流れは変わるはずでは?憶測でもいいから、何かしら中身を詰め込んで計算してみたりしたのだろうか?していないのなら、なぜしなくてよいと言えるのだろうか?もっと言ってしまうと、こういうモデル化しにくいことこそ実験でやるべきであって、CFDと全く同じことを実験で再度やるのはあまり意味がないと思う。というわけで、質問はむしろ「そういう、中身を詰め込んだ実験はしたのですか?してないなら、なぜですか?」ということになる。
  • 触手冠と殻のトレードオフ(?)のところ、気になる。「どちらでもよい」ような書き方だけれど、生成・維持・捕食効率(?)・etc. のようなもので、トータルの比較をした場合に、たとえばより後の種の方がエネルギ消費が少ないみたいな違いがあるのでは?
  • 水の物性(などの物性値・物理定数など)はどうしたのだろう?現代のきれいな海水を想定?別の値に変えてみたりしたのだろうか?
  • 表面粗さ…は、付着生物やってるか。

【論文読み】世界一大きな(重い)ハチドリのエネルギ消費は他のハチドリのスケーリングから外れてはいない

対象論文

Fernández, M. J., Dudley, R. & Bozinovic, F. 2011 Comparative energetics of the giant hummingbird (Patagona gigas). Physiol. Biochem. Zool. 84, 333–340. (doi:10.1086/660084)

概要

対象動物

  • giant hummingbird(オオハチドリ、学名 Patagona gigas).
  • 現状、世界一重いハチドリ。ハチドリ全体としては、ほとんどが6 g以下で、それ以上も 6-12 g である。Giant hummingbird は質量が20 gもあり、二番目に重いハチドリの2倍近くと非常に重い。
  • にも関わらず、giant hummingbird は飛行のつらい*1高地を含む 0-4500 m に分布する。

先行研究と仮説

  • 先行研究によると、DEE*2/BMR*3 > 7 は生理学的に維持不能と考えられる。
  • giant hummingbird はこの限界に近いのではないかという仮設を立てた。もしそうなら、体重の増加につれて、DEEはBMRよりも速く増加するはずだ。

手法

  • giant hummingbird と他の3種を南米のチリで捕獲し、BMR, DEE, HMR*4を調べた。
  • DEE は DLW (doubly labeled water) で調べた。日本語では二重標識水と呼ぶようだ。これは大まかにこういうことのようだ:運動前に水素と酸素の同位体を注射する。このときの同位体の量は known であり、これと、運動後の同位体の比率から酸素消費量がわかり、そこからエネルギ消費を推測できる。そしてこれを時間(今の場合は1日*5)で割れば代謝率が得られる。
  • BMR は、鳥を夜間チャンバの中に入れて、そのチャンバに流入・流出する空気から酸素消費率を計測した*6
  • HMR は酸素マスクを使って計測した。具体的な方法が読んでもいまいちよくわからない。やはりこれもチャンバ内で酸素マスクから酸素を供給し、出て行くところでどれだけ減ったかを見ている、ということかな。
  • BMRを基準として、2つの比率を定義した*7
    • sustained metabolic scope := DEE/BMR(継続可能な無次元代謝率、的な)
    • maximum metabolic scope := HMR/BMR(最大の無次元代謝率、的な*8
    • これらが一般に使われている表現なのかは不明。
  • 自分たちで実験した他に、文献から13の種の DEE, BMR, HMR を探し出した。これらの値は、スケーリング(体重の大小に伴う代謝率の大小の関係)を調べるのに使った。
  • また、phylogenetic*9 な考慮も行った。これには McGuire et al. (2007) のデータ、McGuire からの personal communication による branch length, および Mesquite というソフトと、このソフト用の PDAPモジュールを用いた。

結果

  • giant hummingbird は他のハチドリの allometric scaling から外れていなかった。
  • giant hummingbird の sustanined metabolic scope は 5.6 であり、これは他のハチドリの値(= 3-4程度)よりは高いが、理論的に提唱されている endotherms(恒温動物)の最大値 (= 7) よりは低かった。

議論

  • 実は計測した DEE が、野生での DEE よりも低く出ている可能性がある。なぜなら、野生と違って計測が行われた aviary ではハチドリは単一であり、ネクターも自由にいくらでも手に入ったため。また、Stiles (1971) によると、captivity*10 の Anna's hummingbird は野生下に比べて半分の時間しか飛行していなかったという(DEE は「飛行した時間」ではなく単純に「1日」で割っているので、これは単純に DEE の低下として現れる)。同じことが giant hummingbird でも起こっていたのかもしれない。
    • 一方で、captivity という環境自体がストレスとなり、DEE を増やす方向に働いている可能性もある(これも Stiles (1971) の指摘)。
  • ホバリングよりも他の行動の方が実は本当の瞬間的な代謝率は大きい。つまり、4,500 mで暮らすような giant hummingbird はさすがに生理学的な上限に近いだろう。したがって、ホバリング以外の行動をする事も考えると、これ以上の大型化をしようとすると低地に移行せざるを得ないのではないか。

感想

  • まず2番目に重いやつよりも2倍以上も重いというのが非常に不思議。間のやつは、淘汰されたのか?だとしたらなぜ?それには、この論文では答えていない(そもそもそういう question ではない)。
    • 一方で、そんなにも違うのに metablism としてはスケーリングに乗っていることもやや意外。さらには酸素濃度・空気密度ともに低い4000 m級の高地でも問題ないと。そうするとバイメカだけなら、もう少し大型まで行けるのかもしれない。いけるといっても、総合的には不利になって、このサイズが限界なのかもしれない。← ていうかこれ、Discussion に書いてた…
    • というより、やっぱり、実際に現実的なのは2番目に大きな種までで、giant hummingbird には何かしら環境特異性というのか、特殊化というのか、そういうのがありそうなのだが…。当然、彼女らも(彼女らこそ)このあたりは気になっているはずだから、既にそういうことも調べているかもしれないが。
    • 2番目に重い種ってどれなんだよ!気になる… ← Sword-billed が 12 g くらい行くみたいなので、こいつかもしれない Sword-billed Hummingbirds, Ensifera ensifera
  • DEE, BMR, HMR でそれぞれ異なる手法を用いて代謝率を計測しているが、相互の validation は大丈夫なのか?たとえば、同じ手法を使って同じ値を出せるか、という検証は過去にされているのだろうか?(たぶんされているのだろうが)
  • Phylogenetic treatment のところはやっぱりまだ全然わからない。勉強しなきゃいけない。
  • だいぶ前に読んだので内容忘れてる…(なのでとりあえず書いたとこまでUPしようと)

*1:酸素濃度と空気密度が低い。特につらいのは後者。Dudley や Chai が 1990 年代後半に詳しく調べている。

*2:daily energy expenditure, 一日平均のエネルギ消費利率。

*3:basal metabolic rate, 運動していないときの基礎代謝率。

*4:hovering metabolic rate, ホバリング時の代謝率

*5:普通はもっと長くするようだ。ハチドリは代謝率が高いので短くてもよいのだろう。

*6:この装置、僕がLundにいたときに他の人達がよく使っていた。BMRは安静状態の値でなければいけないので、建物を夜に出入りするときは静かにやれと言われた。うるさくすると鳥が起きてしまい、計測値が振動してしまうとのこと。

*7:BMRで無次元化・正規化した、と言ったほうがいいのかもしれない。

*8:実際にはホバリング中の代謝率が最大ではない。上昇や急旋回などの方が大きくなるはずで、これは論文にも書かれていた。Dudley なので抜かりはない。

*9:日本語だと…系統発生学?

*10:日本語だとなんだろ…飼育?捕獲?

Adobe Creative Cloud を某工大でインストールするには(Win 10)

ひとことで言うと: VPNしろ。

前提

前提として、プロキシの設定は次のようにしておけば良い:

  • 設定を自動的に検出する → OFF
  • セットアップ スクリプトを使う → OFF
  • プロキシ サーバーを使う → ON. プロキシはいつものやつ。
  • 次のエントリで<略>のところのボックス → 何も書かなくて良い
  • ローカル(イントラネット)のアドレスにはプロキシ サーバーを使わない → チェックする

ただし、下記に示すように Win 10 で VPN する場合、直前にはこのプロキシを切る必要がある、ようだ。

手順

  1. まずは手順書にあるとおりにインストーラでCCアプリをインストールする。が、このままだとサーバに繋がらず、個別アプリのインストールに進めない。
  2. Windows の場合、ポータルから VPN のページを開いて、「Network-Access__なんちゃら」というボタンを押す直前までいく
  3. ここで、スタートメニューの設定アプリ(Win 10を想定)> ネットワークとインターネット を開き、今まで使っていたプロキシを切る。このタイミングで切っておかないと、うまいこと VPN 接続できない。
  4. 上記のようにプロキシを切った状態で「Network-Access__なんちゃら」ボタンを押せば、VPN 接続が開始されるはず。
  5. VPN接続した状態で、CCデスクトップアプリを起動する。これでサーバに接続できるはず。

なお、VPN接続した状態では逆にポータルの他の機能は使えない。したがって、インストールが終わったら VPN を切ること。

Adobe ID について

また、Adobe ID はすでに持っているものがあっても、サブスクリプションの関係でややこしいので、別に作ったほうが良さそう。自分の場合は、イラレを他の2台のPCにインストール済みだったため、自分のIDでやろうとすると「これ以上インストールできません」みたいに言われたので、新しく大学用のIDを作った。

NVIDIA GeForce Experience

どうやら GeForce のドライバも、同様に VPN 接続しているときならアップデートできるようだ。